情報更新日:2023年3月

知っておきたい!我が家を守る「火災保険」の基礎知識
~2024年10月から保険料引き上げ、水災リスクの細分化~

知っておきたい!我が家を守る「火災保険」の基礎知識

10月から火災保険が改訂されました。保険料が引き上げられ、豪雨などの水災に関する料率が地域のリスクに応じて5区分に細分化されています。火災保険の基本を正しく理解し、我が家の備えを最適化しましょう。

知っておきたい火災保険の基礎知識

  • 我が家を守る火災保険

火災保険は火災による損害のほか、落雷、ガス漏れによる爆発・破裂以外に、風災や水災、雪災、雹(ひょう)災など自然災害(地震を除く)、建物の水道管からの漏水による水ぬれなど、住まいに関わる様々な損害を補償する保険です。

2024年10月、多くの損保会社が火災保険の保険料が改定しました。これは、損保会社が保険料を算出する際の目安とする「参考純率」を損害保険料率算出機構(以下、「機構」)が引き上げたためです。住宅総合保険の参考純率は、全国平均で13.0%の引き上げとなりました。

保険料の引き上げは、前回の2022年に続く大きな引上げですが、今回は「水災に関する料率が、地域のリスクに応じて5区分に細分化される」ことが特徴です。背景とともに見ていきましょう。

  • 保険料改訂の背景は、自然災害の増加、住宅の老朽化、
    修理費の高騰

機構が、今回の改訂の背景として示したのは次の2点です。

自然災害などによる保険金支払いの増加とリスク環境を踏まえた対応
水災料率における契約者間の保険料負担の公平化など

日本に住む我々にとって、近頃の自然災害の発生頻度の増加と大規模化は、身に染みているところです。災害に遭遇すると、保険金の有難さを実感します。一方、給付側である損保会社はと言うと、火災保険の収支は赤字続きというのが実態です。

保険料引上げの背景は、毎年のように一定規模の被害を及ぼす自然災害が発生していること、住宅の老朽化の進展、資材費や人件費の上昇による修理費の高騰などによって、保険金支払いが増加傾向にあることです。

保険料を計算するための基になる数値を「料率」といいますが、今回の改訂の背景②にある「水災料率」は、水災リスクを火災保険料の計算に織り込むためのものです。同じ自然災害である風災(台風)や雪災の料率は地域差が設けられているのに対し、水災料率はこれまで全国一律でした。近年、水災による損害が増加し、火災保険料の上昇が続くなか、地域間の水災リスクの違いによる保険料の公平化を図る必要性が検討されていました。

  • 水災リスクの地域差が保険料に反映される!

国土交通省が7月に発表した令和4年の水害被害額は、全国で約 6,100 億円となり、平成 25 年~令和4年の過去10 カ年でみると4番目の被害額となっており、ゆゆしき事態です。

● 外水氾濫
台風・大雨などにより河川の水が堤防から溢れたり、堤防が決壊(破堤)したりすることで市街地等が浸水すること

● 内水氾濫
市街地に降った雨が排水施設の能力不足等により河川に排水できず下水が逆流して浸水すること

● 土砂災害
豪雨などにより山やがけが崩れたり、崩れた土砂が雨水や川の水と混じって流れてきたりすることによって発生する災害

水害・水災というと、豪雨等による河川の氾濫をイメージし「自宅は河川から離れているから関係ない」などと思いがちです。が、昨今テレビの報道などで良く耳にする「線状降水帯」による大雨やゲリラ豪雨では、マンションの上階であっても内水氾濫で排水管が逆流したり、河川から離れていても土砂崩れで自宅が損壊したり、と油断禁物です。居住地域の水災リスクを正確に把握し、備えることが大切です。

今回の改訂では、全国一律であった水災料率を市区町村単位で細分化、水災リスクの高さに応じて、保険料がもっとも安くなる1等地からもっとも高くなる5等地まで5つに区分されます。これにより、5等地の保険料(火災、風災、水害等を含めた補償全体)は1等地の約1.2倍になる見込みです。

  • 水災リスクを地域別に見込むために、洪水ハザードマップ、水害統計、地形データなどが活用されます。なお、等地の差は相対的なものであり1等地だから水害が起らない、ということではありません。また、災害の起きやすさだけで区分されているのではなく、被害の程度なども考慮されています。居住地域の等地は、下記の機構のホームページ「水災等地検索」でお住いの所在地を入力するとわかります。

    【水災等地検索】 https://www.giroj.or.jp/ratemaking/fire/touchi/

実際には、同じ市区町村であっても、個々の環境により水災リスクは異なります。エリア情報は、各自治体の洪水ハザードマップで確認します。また、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」から地域のハザードマップを閲覧することも可能です。

【ハザードマップポータルサイト】 https://disaportal.gsi.go.jp/index.html

水災料率を細分化することにより保険料(火災、風災、水害等を含めた補償全体)は、細分化しない場合と比べて、1等地の平均で約6%安く、5等地では約9%高い水準になると機構は算出しています。損保会社によって、どの程度保険料へ反映するのかは異なりますが、10月から地域によって水災補償の保険料に差が生じます。「保険料が高いから」や「河川から遠いから」などの理由で、これまで水災補償を付帯していなかった場合は、この機会に見直してみてはいかがでしょう

では、ここからは、火災保険の基本ポイントについて、見ていきます。

  • 火災保険と保険料の決まり方

火災保険は火災による損害のほか、落雷、ガス漏れによる爆発・破裂以外に、風災や水災、雪災、雹(ひょう)災など自然災害(地震を除く)、建物の水道管からの漏水による水ぬれなど、住まいに関わる様々な損害を補償する保険です。

火災保険は、住宅を取り巻くさまざまなリスクを総合的に補償するタイプ(住宅総合保険)とベーシックな補償のタイプ(住宅火災保険)に大きく分かれます。前項でお話しした水災補償は、オプションのため補償を外すことも可能です。

火災保険料は、損害のリスクに応じたものとなるように、建物の所在地や構造によって決まります。例えば鉄筋コンクリート造のマンションと木造の一戸建てとでは、燃えにくさや壊れやすさが異なり、その差が保険料に反映されます。また、建物所在地、専有面積、補償内容等なども保険料に影響します。保険料は保険会社によって異なります。全国一律であった、水災料率が地域ごとに細分化されたのは、前述の通りです。

  • 火災保険の契約期間は最長5年

火災保険の保険期間は最長5年です。保険料は、契約期間が長いほど割引率が大きくなり、1年契約よりも5年の長期契約、さらに一括払いをすれば割安となります。契約期間は以前、最長36年、2015年10月には最長10年でしたが、自然災害の将来予測の不確実性が増しており、2022年10月の改定で最長5年に短縮されました。保険料の改定がより反映されやすくなったと言えます。

大きな改訂となった前回の2022年改訂では、保険金の使途制限が要件に追加されました。これまで保険金の使途については、保険契約者の判断に委ねられていて、家の修理以外にも使うことができました。改訂では「建物」に関する保険金支払要件として「建物を事故直前の状態に復旧したこと」が追加され、復旧が前提となりました。

  • 建物と家財の契約は別々に

火災保険は、「建物」だけでなく建物の中にある家具等「家財」の損害も補償対象です。「建物」と「家財」は別々の契約となるため、例えば、「建物」だけの火災保険契約の場合、火災で自宅が燃えてしまうと、建物の損害に対する保険金は受取れますが、家財に対する保険金を受取ることはできません。家財への補償を希望する場合は、家財を対象とした契約を別途結ぶ必要があります。

  • 住宅ローンと火災保険

住宅ローンを利用してマンションを購入する際、金融機関から提携火災保険の加入を提示されるケースがあります。その際は複数社で補償内容や保険料等を比較検討して、加入を進めます。なお、住宅金融支援機構と民間金融機関が提供する「フラット35」を利用する場合は、返済終了までの火災保険契約が必要です。

民間金融機関が単独で提供する住宅ローンの多くも、火災保険が必須条件となっています。多くの住宅ローンは長期返済が前提です。返済途中で火事に見舞われた場合、自宅に住めなくなる上に、住宅ローンの返済義務が残ります。残債を返済しながら、新しい住まいや家財を準備するのは容易ではありません。このように、火災によって生活が困窮するリスクを防止するために、火災保険の準備が必要です。

なお、住宅ローン契約と火災保険契約は別もののため、住宅ローンを繰上返済したり、借換えたりしても火災保険が自動的に消滅することはありません。火災保険は途中で見直すことも可能です。

保険金額は、原則借入額以上、評価額(時価額又は再調達価額)以下で検討します。保険金額を借入額と同額に設定した場合、借入残高が建物の時価より低いと、支払われる保険金は建物の時価を下回ります。住宅ローンは完済できますが、建物の修理や建て直しの費用には充てられません。保険金額を建物の時価いっぱいに設定することが重要です。なお、同等の建物を再築・購入するには、保険金額を時価ではなく再調達価額で設定します。

現金でマンションを購入する場合は、火災等の災害が発生した際の自分と家族への影響を考慮し、加入の是非や火災保険の補償額を判断します。

  • 補償されるのは火災だけじゃない!?
    「火災保険=住まいのリスクに備える保険」

現在の火災保険は、様々なリスクに対応するため基本補償とオプション補償という形式で必要な補償が選べるようになっています。

【火災保険の補償内容一覧】

リスク 補償内容
火災 先火やもらい火、放火などによる火災の損害を補償
落雷 落雷による損害を補償
破裂・爆発 ガス漏れなどによる破裂・爆発の損害を補償
風災・雹災、雪災 風災(台風、旋風、竜巻、暴風等を言い、洪水、高潮等を除く)、雹災、雪災
(豪雪、雪崩等を言い、融雪洪水や除雪作業による事故を除く)による損害を補償
水災 台風や豪雨等による洪水などの水災の損害を補償(地震による津波を除く)
漏水などによる水濡れ 給排水設備の事故や他人の戸室で生じた事故に伴う漏水、放水、溢水を原因とする水濡れによる損害を補償
建物の外部からの物体の落下、
飛来、衝突、倒壊等
「自動車が飛び込んで来た」など、建物の外部からの物体の落下、飛来、衝突、接触、倒壊または建物内部での車両もしくはその積載物の衝突もしくは接触による損害を補償
騒擾、集団行為、労働争議に伴う
暴力、破壊行為
集団行動・労働争議に伴う暴力行為・破壊行為による損害を補償
盗難による盗取、損傷、汚損 盗難によって保険の対象について生じた盗取、損傷、汚損の損害を補償
不測かつ突発的な事故
(破損、汚損)
「誤って自宅の壁を壊してしまった」などの偶然な事故による損害を補償

※上表は一般的で基本的な補償内容です(筆者作成)。個々の補償内容は保険会社や火災保険契約によって異なり、上表以外のオプション契約も多々あります。詳細は各保険会社へお尋ねください。

おさえておきたい火災保険の注意ポイント

  • 地震による火災は火災保険の対象外

火災保険は地震による損害の補償は対象外です。火災による損害であっても地震や津波が原因であれば補償されません。地震による損害に備える保険は、地震保険です。なお、地震保険は単独では加入できず、火災保険とセットで契約する必要があります。

  • 自宅の出火がお隣へ延焼したら?お隣からのもらい火は?

失火者は「重大な過失」がなければ、法律上の損害賠償責任は負わないことになっています。自宅からの出火でお隣の住戸が類焼しても、逆にお隣の住戸からのもらい火で自宅に損害が出ても、法的には互いに損害賠償する必要はありません。

火災保険のオプション契約の中には、火災等により第三者の所有物に損害を与えた場合に失火見舞費用を支払う特約や、被害側の火災保険では復旧が不十分な場合に、不足分を保険金で支払うなどの特約もあります。火災に関する被害に対し、自分の火災保険でどこまで備えるか、現在の保険ではどこまで補償されるか、確認しておくことが大切です。

大切な我が家だから、自分で守り自分で備える

分譲マンションには、専有部分と共用部分があります。通常、個人で火災保険に加入する場合の保険対象は「専有部分」であり、「共用部分」については多くの場合、管理組合が一括して契約します。保険事故が発生した場合に管理組合の保険を使うのか、個人の保険を使うのかは、事故の原因や発生箇所によって異なります。

例えば、バスルームやパウダールームの機器の破損や老朽化によって階下住戸へ水漏れさせた場合は個人の保険を使うことになるでしょうし、共用廊下の干割れ等が原因で雨水が自室へ侵入し損害が出たような場合は管理組合の保険を使うことになるでしょう。大切なことは快適な暮らしを維持すること。我が家に起こりうる損害は、自分で備えたいところです。

備え方は、緊急予備資金を準備したり、目的に応じた保険に加入したり、と様々です。現金より保険で備える方法が適しているのは、発生頻度は少ないけれども、いったん発生すると損害額が大きくなるものです。火災のほか、地震、巨大津波、大型台風等の自然災害リスクはその代表例です。

火災保険が適用される損害は火災だけに限らないとお伝えしましたが、特約を結ぶことで補償範囲を広げることが可能です。例えば「個人賠償特約」では、専有部分の配管から階下へ水濡れを発生させてしまった、バルコニーから植木鉢を落下させて通行人に怪我をさせた、自転車で走行中にお年寄りを転倒させてしまいお年寄りが意識不明となって3日後に死亡した、など日常生活に起因する偶然な事故に備える特約です。

この「個人賠償責任特約」は管理組合でも個人でも契約することが可能です。いわゆる自転車保険も、この個人賠償特約でカバーできます。ご自身と家族が被る損害や相手へ与える可能性のある損害に備え、適した保険の加入を検討しましょう。

日頃からの心がけで損害事故を未然に防ぐ

  • 場所を選ぶ、住宅を選ぶ

地震、津波、豪雨、竜巻などの自然災害は、人間の手で簡単に防ぐことはできません。現在、住宅購入を検討されているならば、住む場所も住宅も自分で選べます。所在地や身のまわりの災害リスクを調べるには、先にもご紹介した国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」が秀逸です。過去の代表的な災害事例も確認できます。

各自治体のハザードマップにも言えることですが、ハザードマップは見慣れておくことも大切です。緊急事態が差し迫っているタイミングでは、落ち着いてハザードマップを確認し、適切な判断を行う余裕はないかもしれません。平常時の余裕がある時にこそ、身のまわりの災害リスクを調べておきましょう。

  • 日頃の心がけで防災・減災

【防災・減災の取組み】

不注意による火災を起こさないためには、防災行動を習慣化することが有効です。料理中は火のそばから離れない、電気器具の利用が終われば電源プラグを抜くこと、などが大切です。差しっぱなしの電源プラグとコンセントの間に埃が溜まって火災になる事故もよく耳にします。意識して掃除をする、埃の入りにくい器具を使うなど、身の周りにもすぐにできることがあるのではないでしょうか。

「備えあれば憂いなし」と言います。かけがえのない大切な暮らしを守るためにも、ご自身とご家族に最適な方法で備えていきましょう。マンション購入時に契約してそのままになっている火災保険があれば、この機会に補償内容、残期間等を点検してメンテナンスしましょう。心より応援しています。

※掲載の情報は2024年9月現在
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ファイナンシャル・プランナー(CFP®)
宅地建物取引士・産業カウンセラー・自分予算®プランナー
大石 泉

(株)リクルートにて週刊住宅情報(現SUUMO)の編集・制作に約15年携わった後、2001年にFP事務所を設立。
「住まい、キャリア、マネー」の3つの柱で個人の豊かな暮らしをサポートする。