情報更新日:2023年3月
目的に応じた住宅ローンの借換えを
住宅ローンの見直し方法のひとつが「借換え」。金利上昇リスクの回避や返済額の軽減など、目的に応じた借換えで、住宅ローンを最適化しましょう。
返済中の住宅ローンで、見直したいポイントは何ですか?
住宅を購入し、住宅ローンの返済がスタートしたのは、何年前でしょう。経済情勢が変化し、働き方やライフスタイルが進化し、収入や支出などの家計状況も変化しているかもしれません。住宅ローンを見直すことで我が家の現状にさらに適した返済プランになるならば、検討してみる価値が大いにあります。
住宅ローンの見直しの選択肢は様々です。金利が下降トレンドの時は、より低い金利の住宅ローンに借換えて支払額を減額します。一方、金利が上昇トレンドの時は、金利変動リスクを回避する固定金利型への見直しが選択肢です。今回は、住宅ローンの見直し方法のひとつ「住宅ローンの借換え」についてお話しします。
「住宅ローンの借換え」とは
住宅ローンの借換えは、現在返済中の住宅ローンを新たに借入れた住宅ローンで完済し、新たな借入先となる金融機関へ返済を行っていく仕組みです。現在の住宅ローン契約は終了し、新たな契約がスタートします。借換えには、変動金利タイプの住宅ローンを固定金利の「フラット35」へ借換えたり、「フラット35」を10年固定タイプに借換えたり、という金利タイプを変更するプラン。「フラット35」から「フラット35」へ、変動金利から変動金利へ、という同タイプで借換えし、金利差を利用して返済額を減らすプランなどがあります。
住宅ローンの返済プランの見直しには、繰上返済や返済条件の変更等がありますが、これらは返済中の住宅ローンの条件変更のため、現在の契約が終了することはありません。借換えは、契約そのものが新しくなる点が異なります。
住宅ローンの借換えの事前準備
「借換え」を行う前にやっておきたいことは二つです。
●「現状把握」
先ずは、返済中の住宅ローンの把握です。借入残高、残りの返済期間、金利タイプ(固定型、変動型、固定期間選択型)、適用中の金利、返済方法、返済額などを把握します。特に、金利タイプについては重要です。また、優遇金利が適用されている場合は、基準金利と優遇幅もチェックポイントです。なお、固定期間選択型では、固定期間の終了時期、終了後の金利タイプ選択時の手数料や条件を確認しておきます。
●「希望の整理」
変更希望の項目や条件をピックアップします。例えば、「新規の住宅ローン金利が低いので、自分の適用金利も下げたい」、「金利が上昇しそうなので、今のうちに固定金利へ変更しておこう」、「毎月返済額を減額し家計を楽にしたい」など。希望条件やその優先順位によって見直しプランが異なるため、希望をすべて書き出すことをお勧めします。
借換えにはコストがかかります。「現状把握」と「希望の整理」の2つの事前準備が整えば、借換え以外で手数料が安価な方法が見つかるかもしれません。現状把握と変更希望項目を整理しましょう。
【変更希望項目と対応策】
変更希望項目 | 対応策 | 見直し例 |
金利上昇リスクを回避したい | ①条件変更(金利タイプの見直し) ②借換え |
①②変動金利型の住宅ローンを条件変更や借換えなどで、固定金利型へ変更する。 |
毎月返済額を減額したい | ①借換え ②繰上返済(返済額軽減型) |
①現状より低利の住宅ローンへ借換え。※長期固定型以外への借換えは、金利上昇の可能性があるため要注意。 ②期間短縮型の繰上返済を行う。 |
リタイア後に備え、ボーナス払いを止めたい | ①条件変更(返済方法の見直し) | ①ボーナス併用払いから、毎月返済のみの返済方法へ変更する。 ※毎月返済額は増額する。 |
完済時期を早めたい | ①繰上返済(期間短縮型) ②条件変更(返済額の見直し) |
①期間短縮型の繰上返済を行う。 ※繰上により手元資金は減少するが、総利払い額も減る。 ②毎月返済額を増額し、残期間を短縮する。 |
元本を早く減らしたい | ①条件変更(返済方法の見直し) ②繰上返済 |
①返済方法を元利均等返済から元金均等返済へ変更する。 ②元本を繰入れる繰上返済を実行する。 |
※住宅ローンの借換えや繰上返済には、金融機関への手数料が必要です。繰上返済は、金融機関によって繰入元本の最低金額が異なります。メリットとデメリット、そしてコストを勘案し、選択・実行します。
住宅ローンの借換えは、効果とコストのバランスがポイント
返済期間短縮やボーナス返済の停止など返済方法の変更は、返済中の住宅ローンの条件変更や繰上返済で対応できます。より好条件の金融機関へ変更を希望する場合は住宅ローンの借換えです。借換えは、条件変更より手数料等の諸費用が高くなるため、試算して比較検討し、最適な借換え先とプランを絞り込みます。
例えば、「総返済額の減額」を目的に低金利の住宅ローンに借換えた場合に、「毎月返済額は下がったが、借換え手数料が高額で、支払総額は変わらなかった」とするとどうでしょう。手間をかけただけの借換えは、希望や目的を達成したとは言えません。借換え効果を得るには、金利差だけでなくコストの検証が重要です。
住宅ローンの借換えコスト(諸費用)
借換えは新たに住宅ローンを借入れるため、金融機関手数料、保証会社手数料、保証料、団体信用生命保険料、印紙税、登記関連手数料など、購入時と同種の費用が発生します。ただし、借換えの場合は、返済に伴って借入残高が減り、残期間も短くなっているため、借入額や返済期間に連動する諸費用(手数料や保証料等)は、当初より少なくなります。
また、保証料など現在の住宅ローンを解約すると返還される諸費用もあります。一方で、当初には不要であった、抵当権抹消費用などが新たに生じます。諸費用の項目や費用は金融機関や住宅ローンによって異なります。必要情報を収集して試算し、もっとも効果の高い借換え先を選択します。金利、諸費用、返済条件等、総合的な比較が重要です。
住宅金融支援機構や金融機関のホームページでは、借換えシミュレーションを提供しています。簡単なものから、数プランを比較できるものもあり、自分で試算する際に役立ちます。試算が不安な場合や試算結果の分析や評価は、ファイナンシャル・プランナーなどプロの助言を求めることも一考です。
残高が「多い」、残期間が「長い」、ならば借換えを検証しよう
12年前に3500万円を「フラット35」金利2.63%・35年元利均等返済で借入れた住宅ローンを、同じ「フラット35」・金利1.96%に借り換える場合で試算してみましょう。
※「フラット35」とは住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供する全期間固定型の住宅ローンです。
12年経過後の残高は2639.8万円です。借換えが成立すれば、毎月返済額は127,575円から118,896円となり、8,679円減ります。残りの23年間の総返済額の差(減額合計)は、239.5万円です。
仮に、借換えに係る手数料等を60万円支払ったとすると、179.5万円のメリットが出る試算です。
借換えは、欲しいものを我慢するような節約とは異なり、心理面でも健康的だと言えます。「借換えの試算をしたことがない」「試算したことはあるが随分と前だ」という方は一度、現状の我が家の数字を元に、住宅ローンの借換えを試算してはいかがでしょう。
■借換え試算(概算)
現在返済中の住宅ローン | 借換え試算 | 軽減効果 |
残元本:26,398,423円 残期間:23年 返済金利:2.63%(固定) |
元本:26,398,423円※1 返済期間:23年 返済金利:1.96%(固定) |
|
毎月返済額:127,575円 | 毎月返済額:118,896円 | 毎月の差:▲8,679円 |
残期間に対する総返済額 35,210,593円 |
総返済額 32,815,213円 |
総返済額(利息)の差 ▲2,395,380円 |
※1 借入れは、10万円単位。比較のために1円単位で試算。
金利差による借換えのメリットを受けるには、金利差1%以上、残高500万円以上、残返済期間10年以上が目安だと言われています。ですが、先の試算例のように、必ずしも3つの条件を満たさなくても、借換え効果が出る場合は多々あります。「残りの期間は10年未満だが、残高が2000万円以上」「金利差は1%未満だが、残高3,300万円あり、残期間も10年以上」などの場合は、試算してみましょう。
住宅ローンの借換えで、自分にあった返済プランを実現しよう
借換えの手順は、事前準備も含め、「把握」⇒「整理」⇒「試算」⇒「検証」⇒「実行」です。先にお話ししたように、先ずは、現在の住宅ローンを把握、そして、住宅ローンプランをどうしたいか、「返済額を減らしたい」「金利の上昇リスクを抑えたい」「返済期間を短くしたい」などの希望条件の整理です。希望条件には、優先順位をつけておくと効果的です。
次に、希望に添った情報収集を行い、試算します。借換え以外の選択肢も含めて希望条件が叶うプランを絞り込んで検証します。そして、確信が持てたら、実行です。
借換え方法には、単純に住宅ローン残高と残期間を借換える方法もあれば、借換え時に一部繰上返済をし、毎月返済額を金利差以上に減額したり、返済期間を短縮したりすることも可能です。どのような借換えをするかによって効果もコストも異なります。希望条件を書き出す際、優先順位をつけると効果的です。
優先順位が「①定年までに完済したい」「②総返済額を減らしたい」ならば、借換えの際に手持資金を投入し、期間短縮型の一部繰上げ返済を組み合わせると効果大です。この際、投入する資金は余裕資金であることが原則です。優先順位の高い項目を実行し、住宅ローンの最適化を図りましょう。
要注意!借換えできない場合の例
最後に、借換えできない場合についてもみておきましょう。住宅ローンの借換えは、既にお話しした通り、金融機関と新たに住宅ローンの契約を結ぶこととなります。よって、借換え時には、当初と同じく、金融機関の審査を受けることとなり、審査に通らなければ借換えはできません。なお、新規購入時に審査に合格しているため、借換え時は「建物」よりも「借りる人」の条件がより重要となります(下表参照)。
■借換えできない場合の例
※金融機関によって、借換えの可否や審査基準が異なります。
□独立・転職の直後で、勤続年数が短い場合 |
□収入が減少している場合 |
□自己居住用から賃貸住宅に転用した場合 |
□現在の住宅ローン等において延滞履歴がある場合 |
□健康状態により団体信用生命保険が通らない場合(「フラット35」は団体信用生命保険・未加入の場合も利用可) |
借換え条件(金利や諸費用含む)は、金融機関や住宅ローンによって異なります。新規借入と借換えで金利が異なる金融機関もあります。金利と諸費用が低い金融機関を数行ピックアップして試算し、希望条件を叶える最適な借換えを実行します。希望条件を書き出し、優先順位をつけた段階で、住宅ローンの専門家や絞った先の金融機関へ相談しに行くのも効果的です。豊かな暮らしの実現へ向けて、住宅ローンを見直してみましょう。
※掲載の情報は2023年3月現在
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※住宅ローンについて詳しくは、住宅金融支援機構、または、各金融機関のホームページ等をご覧ください。
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)
宅地建物取引士・産業カウンセラー・自分予算®プランナー
大石 泉氏
(株)リクルートにて週刊住宅情報(現SUUMO)の編集・制作等に約15年携わった後、2001年にFP事務所を設立。
「住まい、キャリア、マネー」の3つの柱で個人の豊かな暮らしをサポート。