情報更新日:2024年2月
贈与税の非課税枠を活用しよう
住宅購入時に親や祖父母から資金を援助してもらうと、一定額まで贈与税がかからない特例があることをご存知でしょうか。非課税枠が大幅に拡充されている贈与税の特例についてご紹介します。
親からの住宅資金の援助は一定額まで税金がかからない
住宅を買うときには住宅ローンを借入れるケースが一般的です。借入れの際に手元資金から頭金をなるべく多く用意できれば借入額が減り、ローンの返済負担を抑えられますが、預貯金などには限りがあるのが実情でしょう。
そこで検討したいのが、親などからの援助の活用です。とはいえ、ここで気になるのが税金です。通常はたとえ相手が親であっても、金銭の贈与を受けると贈与税の課税対象になります。しかし住宅を購入する時に親や祖父母から資金援助を受けた場合は、一定額まで贈与税がかからない非課税枠の特例が利用できるのです。
非課税枠が利用できるのは2026年12月まで
2024年度の税制改正により、親などからの住宅資金の贈与税の非課税枠が2026年12月31日まで延長されました。非課税枠は一般住宅の場合、500万円です。贈与税にはもらう相手や使い道にかかわらず110万円まで税金がかからない基礎控除もあるので、合わせて610万円まで税金がかかりません。
また、取得する住宅が省エネルギー性・耐震性・バリアフリー性のいずれかの基準を満たす場合は、非課税枠が500万円加算されて1,000万円になります。基礎控除と合わせると1,110万円まで非課税になる計算です。
なお、非課税枠の対象となる住宅の床面積要件は原則として「50㎡以上」ですが、合計所得金額が1,000万円以下の人に限り「40㎡以上」に緩和されています。単身者や少人数世帯が50㎡未満のマンションを購入するケースでも、贈与を受けやすくなっているのです。
図表1.住宅取得資金の贈与税の非課税枠を受けるための要件(新築住宅の場合)
- ①贈与を受ける子や孫が贈与の年の1月1日現在で満18歳以上
- ②贈与を受ける子や孫の合計所得金額が2,000万円以下
- ③住宅の床面積が50m²以上240m²以下
(合計所得金額1,000万円以下の人に限り40㎡以上240㎡以下) - ④原則として贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得すること
- ⑤贈与を受けた翌年12月31日までに居住すること
■非課税枠が加算される住宅の要件
以下のうちいずれかの性能を満たす住宅
- 省エネルギー性の高い住宅:断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上
※2023年末までに建築確認を受けた住宅または2024年6月30日までに建築された住宅は、断熱等性能等級4または一次エネルギー消費量等級4以上 - 耐震性の高い住宅:耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物
- バリアフリー性の高い住宅:高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上
相続税精算課税でも2,500万円まで贈与税がかからない
贈与税の課税方法は毎年1月1日から12月31日までにもらった額が課税の対象となる「暦年課税」が一般的ですが、特定の親や祖父母からの贈与について別枠で課税する「相続時精算課税」を選ぶこともできます。相続時精算課税を選ぶとその親や祖父母からの贈与について、累計で2,500万円まで贈与税が非課税になる特別控除が利用可能です。ただし一度選ぶと暦年課税に戻すことができません。
この相続時精算課税は親や祖父母が60歳以上で子・孫が18歳以上という年齢制限がありますが、住宅取得資金の贈与に関しては特例で親や祖父母の年齢が問われません(2026年12月31日の贈与まで)。さらに前述した500万円の非課税枠も併用できるので、最大で3,000万円(一定の基準を満たす住宅は3,500万円)まで贈与税が非課税になります。
ただし、相続時精算課税の対象となる贈与額については、500万円の非課税枠を除き、援助してくれた親や祖父母の相続が発生した時点で相続財産に加算され、相続税の課税対象になります。贈与を受けた時点で贈与税が非課税になっても、将来の相続時に相続税が課税されるケースもあるので注意してください。
なお、2023年度の税制改正により、相続時精算課税にも110万円の基礎控除が新たに設けられました。これまでは相続時精算課税を選ぶと、2500万円の特別控除や500万円の住宅取得資金の非課税枠を超える額には一律20%の贈与税がかかり、将来の相続時に精算される仕組みでした。それが2024年1月1日の贈与からは、特別控除や非課税枠を超える額の贈与であっても年間で110万円までは贈与税が課税されず、将来の相続財産にも加算されなくなったのです。
図表2.相続時精算課税の住宅取得資金の特例を受けるための要件(新築住宅の場合)
- ①贈与を受ける子や孫が贈与の年の1月1日現在で満18歳以上
- ②住宅の床面積が40m²以上
- ③原則として贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得すること
- ④贈与を受けた翌年12月31日までに居住すること
夫婦それぞれが贈与を受けたら住宅を共有名義に
贈与税は贈与を受ける額が大きいほど税率が高くなり、親からの贈与でも通常は600万円を超えると20%近い税金が課せられます。そう考えると、住宅取得時の贈与税の非課税枠がいかに有利な制度かがわかるでしょう。仮に夫婦がそれぞれの親や祖父母から610万円ずつ贈与を受ければ、1,220万円まで非課税で援助が受けられるのです。
ただし夫婦で贈与を受ける場合は、それぞれの贈与額に応じて住宅の名義を共有にする必要があります。仮に妻が自分の親から500万円の贈与を受けたにもかかわらず、住宅が夫の単独名義になっていると、妻から夫への贈与とみなされて贈与税が課せられてしまうのです。
特例の利用には贈与の翌年に申告手続きが必要
なお、贈与税の非課税枠を利用するには、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに申告が必要です。相続時精算課税を選ぶ場合も同期間中に届出が必要なので、税務署で忘れずに手続きしてください。
また、非課税枠の金額は住宅の契約時点で決まりますが、実際に贈与を受けるのは引き渡し時点が原則です。契約の時点で贈与を受けてしまうと、翌年の3月15日までに引き渡しが受けられなかった場合に非課税枠が使えなくなる場合があるので注意してください。
このように住宅購入時に親や祖父母から援助を受ければ贈与税の負担なしに頭金を増やすことができます。頭金が増えれば住宅ローンを減らせるので、返済に伴う利息負担を減らすことも可能です。
家を買うときに親などから援助を受けることに抵抗を感じる人もいるかもしれません。とはいえ、高齢者が持っている資産を有効に生かし、現役世代の住居費負担を減らすという意味で、贈与税の非課税枠は意義のある制度と言えます。援助を受けた分は新居に遊びに来てもらうなど親孝行でお返しすれば、親子ともに満足度が高まるでしょう。
※掲載の情報は2024年2月現在
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住宅系シンクタンク「オイコス」代表
大森 広司氏
住宅ジャーナリスト。SUUMO、All Aboutなど情報誌やネットで住宅関連全般にわたって取材・執筆活動を続けている。
近著に『あなたのマイホーム 絶対トクする入手ガイド』(日本実業出版社。共著)などがある